目次
1. ハイコンテクスト(日本語)vs ローコンテクスト(英語)
日本語は、文脈からわかる主語や目的語を言わなくても文法的に正しい文になる言語です。「昨日見た?」「うん、見た」の会話には、誰が何を見たのかが一度も出てきませんが、話し手同士には十分に伝わります。むしろ「私はそれを見ました」と毎回言うと、くどく聞こえます。
英語は違います。主語の位置が文の形の一部になっていて、文脈から明らかでも I / you / it などを置くのが原則です。主語を省けるのは、命令文(Send it today.)や、Sounds good. / Will do. のような会話の決まった言い方、メモや日記のくだけた書き方などに限られます。文化人類学者エドワード・ホールの「ハイコンテクスト/ローコンテクスト文化」という区別で説明されることもありますが、学習者として押さえるべきなのは、まずこの文法上の違いです。
2. 日本人が英語で主語を落としてしまう3つの原因
原因1: 直訳の「頭の中の日本語」に主語がない
「楽しかったです」を頭の中で英語に訳す際、「Was fun」と動詞・形容詞からスタートしてしまうためです。
原因2: 「無生物主語」になじみがない
英語では「The rain kept me from going out(雨が私の外出を妨げた=雨で出かけられなかった)」のように物体・現象を主語にする文化がありますが、日本語では人が主語になりがちです。
原因3: 「誰が主語か」を瞬時に選ぶ負担
日本語では文脈が主語を決めてくれるため、話し手・相手・特定できないものの区別を毎回選ぶ必要がありません。英語では I / you / we / it / there の中から毎回1つ選ばなければならず、この判断が遅れて主語ごと省略されてしまうのです。
3. 主語が見当たらないときの形式主語(It / There)
主語が人でない文でも、ふつうは物や事柄をそのまま主語にします(The meeting starts at 10. / This plan costs too much.)。形式主語の It や There が必要になるのは、天気や時間のように主語にできる具体的なものがない場合と、「〜がある」と存在を伝える場合です。日本語の「今日は雨だ」の「今日は」は話題を示しているだけなので、Today is raining. ではなく It is raining today. になります。
- • 天気・時間・状況: It is cold today. / It takes 10 minutes.
- • 存在・提示: There are three key issues. (3つの課題があります)
- • 感情・感想: It was surprising that... (〜だったのは驚きでした)
4. メールで主語を省いてよい場面・よくない場面
英語のメールやチャットでも、親しい相手との短いやり取りでは主語を省くことがあります。Will review and send tomorrow. / Thanks for this. / Sounds good. は、同僚同士のチャットなら普通に通じます。英語話者もこのように書くことがあります。
ただし、社外の相手や、複数の人が関わる案件では主語を入れたほうが安全です。CC に上司やチームが入っているメールで Will review and send tomorrow. と書くと、確認するのが自分なのかチームなのかが文からはわかりません。I'll review the document and send it to you tomorrow. と書けば、誰が何をするかがはっきりします。日本語話者の場合、主語を省いた文はくだけた文体として選んだのではなく、日本語の癖で落ちていることが多いので、改まったメールでは各文に主語があるかを見直しましょう。また、send の後ろの it(目的語)も一緒に落ちやすい点に注意してください。
5. 今日からできる「主語ファースト思考」トレーニング
何かを言おうとした時、口を開く前のほんの一瞬で「主語は誰(何)か?」を一言心の中で呟く習慣をつけることです。「I」「You」「It」「We」「There」のいずれか1つをまず発音し、その後に動詞を繋げましょう。
6. 対訳で体感する「主語の差」
主語の差は、同じ意味の文を並べて比べるのが一番わかりやすいです。次の対訳で、日本語が「文脈」で主語を補っているのに対して、英語が「文の形」で主語を明示していることを体感してください。
• 日本語: 行きます。 → 英語: I will go.(省略不可)
• 日本語: 面白かったよ。 → 英語: It was fun.(話題になっている出来事を it で受ける)
• 日本語: 大丈夫です。 → 英語: I'm fine. / That's fine.(誰が・何が大丈夫かを選ぶ)
• 日本語: 雨で出かけられなかった。 → 英語: The rain kept me from going out.(無生物主語)
• 日本語: 3つの課題があります。 → 英語: There are three key issues.(存在文は There)
日本語の文を英語にするときは、「主語は文脈が補ってくれる」という前提をいったん外し、「この文で動作をしているのは誰か・何か」を最初に決めてください。
7. 形式主語 It / There を場面別に使いこなす
It と There を使う代表的な場面を整理しておきます。ただし、主語にできる具体的なものがあるなら、そちらを主語にするのが先です。
- • 天気: It is raining.(雨が降っている)
- • 時間: It is 9 o'clock.(9時です)
- • 距離: It is far from here.(ここから遠い)
- • 評価: It is important to study every day.(毎日勉強することは重要だ)
- • 存在: There is a coffee shop near the station.(駅の近くに喫茶店がある)
- • 数量: There are three issues to discuss.(話し合うべき課題が3つある)
- • 否定: There isn't enough time.(十分な時間がない)
- • 疑問: Is there anything else?(ほかに何かありますか?)
おおまかには、「天気・時間・距離・評価」なら It、「〜がある・いる」なら There と覚えておくと、主語に迷ったときの手がかりになります。
8. 無生物主語で「英語らしい」文に
英語には、日本語なら「人」が主語になるところを「物や現象」が主語にする、無生物主語という特徴があります。使いこなせると、簡潔でプロらしい英文になります。
• This book taught me a lot.(この本は私に多くを教えてくれた=この本から多くを学んだ)
• The meeting will give us a chance to discuss.(その会議は私たちに話し合う機会を与えるだろう)
• A mistake in the schedule caused the delay.(スケジュールのミスが遅延を引き起こした)
• The new policy will benefit all employees.(新方針は全従業員に利益をもたらすだろう)
日本語は「私はこの本から学んだ」「雨で出かけられなかった」と人や状況を中心に組み立てますが、英語では原因になった物や出来事を主語にすると、文が短くまとまることがよくあります。ビジネスメールやレポートでは特に便利なので、主語に迷ったら「原因は何か」を主語にできないか考えてみてください。
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